モンゴル民族文化基金の夢 /モンゴル民族文化基金

さしかえ_r4_c1.gifサイトマップ部分_2.gifサイトマップ部分_3.gif

muss.jpgkikin.jpgbunka.jpggakuzyutu.jpgsyougakukin.jpg

HOME > モンゴル民族文化基金の夢

077.jpg078.jpg027.jpg

第1期2002年6月ー2004年7月

rizi01.jpgバー・ボルドー 1.モンゴル民族文化基金設立の目的と社会的背景

モンゴル民族文化基金(以下、『基金』と略す)は2002年6月30日、東京都板橋区で産声を上げた。中国内のモンゴル人コミュニティーにおけるモンゴル語で教育を受けている子どもたちへの奨学金の提供が主な目的なのだ。この小さな歴史的瞬間から『基金』は在日モンゴル人と故郷の子どもたちの大きな夢を背負って歩き始めたのである。

 現在中国に暮らす約580万人のモンゴル人のうち、80%を占める480万人ほどが内モンゴルに居住しているが、内モンゴルの総人口の中ではわずか13%しか占めていないのが現状だ。
  また内モンゴルなどにおける都市化、産業化の急速な発展と同時に貧富の差も益々大きくなっている。
  そうした現象は伝統的モンゴル文化の停滞または喪失、とりわけモンゴル語による教育に大きな影響を与えていることは言うまでもない。
  競争率が高くて人口的に圧倒的に多い漢人社会のなかで生きていくためには漢語で教育を受けることが重要であるという認識から、多くのモンゴル人父兄たちは子どもたちに漢語教育を受けさせるようになり、モンゴル語を話せない世代が激増している。
  さらに貧困のため、多くの学校で学費が払えずに中退する生徒が増え、近年ではモンゴル幼稚園をはじめ、一部のモンゴル学校で生徒が不足するという悲しむべき現象さえ起こっている。
  『基金』はそのような状況に鑑みて、母語のモンゴル語で教育を受けることを奨励し、成績優秀で経済的に困難なモンゴル農牧民の子どもたちに奨学金を提供するために発足したのである。
  それは、在日モンゴル人の共通の危機意識による結束の結晶とも言えよう。


kikin23.gif
しかし、『基金』の運営は決して容易ではない。まず多くのモンゴル人の間には中国当局に「民族分裂」を図る政治活動として見られるのではないかという不安心理があったため、『基金』を敬遠しがちだった。
  みんなに安心して基金の活動に参加してもらえるために、われわれは中国大使館に『基金』の規約などを届け出て、正式の承認を得た。
  次に資金源は在日モンゴル人の会費と日本人の有志たちの寄付に頼っているが、モンゴル人の大半が私費留学生なので会費納入に一定の困難があったし、ボランティア活動にも限界があった。
  そこで比較的短期間で集中的に資金を獲得すべきチャリティーコンサートを主宰し、売上金をすべて『基金』に寄付する方針を取った。
  大勢の在日モンゴル人アーティストが無報酬で演出してくれた。
  自分たちの力で『基金』を運営することに大きな意味があるのだ。

2.活動方針と実施状況

 『基金』の理事長という重任を背負ったわたしは、当初から『基金』を維持していくには私費留学生に負担の少ない会費制と日本各地のモンゴル人を動員できる組織作り、なるべく広い範囲をカバーする奨学金対象地域の選定が必要だと考えていた。そうした構想を理事会に提示し、度重なる討議を行った結果、『基金』の活動方針を次のように決定し、実施した。

 1)出身地域のバランスと日本での在住地区を考慮して理事会構成員を25名として、
   東京を活動拠点として、それ以外の地域に在住する理事を当該地域のまとめ役とした。
 2)留学生の負担を考慮して、年会費は留学生2000円、社会人5000円とした。
 3)対象地域は内モンゴル全域をカバーする14ヶ所とそれ以外の4地域のモンゴル学校とした
   (具体的な地域は本基金公式サイドを参照されたい)。なお現時点では高校に限定する
    とし、奨学金の提供は、当該地域出身の理事が責任を持って実施することになった。
 4)対象地域のモンゴル族高校各学年の成績優秀で経済的に困難なモンゴル農牧民子弟を
   優先的に考えた。支給金額は一人1万円ずつで、生徒の年間学費と一部生活費に相当
   する。


kikin24.gif
各高校には『基金』の紹介文、募集要項、奨学金授与書などを送り、奨学生にはモンゴル語と自分の将来とのかかわりについての作文を書いてもらった。『基金』に関する各高校の評価は高く、地元政府機関や校長先生らから国際電話で直接に感謝のことばをいただいた。奨学生たちの作文には、「将来建築家になって…自分の労働によって稼いだお金で貧しい子どもたちを助けたい」、「モンゴル語の先生になるのがわたしの小さい時からの夢だ」という抱負や、「漢語は習得する必要はあるが、母語を忘れてはならない」「モンゴル語で教育を受ける子どもに将来がないという大人が大勢いるが、そのような根拠は一体どこにあるのだろうか」といった大人顔負けのモンゴル語無用論への批判の声があった。昨年の夏、筆者は、帰省の際に会ってくれた、母と二人暮らしの女の子に「『基金』についてどう思う?」と聞いたところ、彼女は目に涙を光らせながら、小さな声で「授与書は母に上げた」と言った。感極まってか彼女はそれ以上なにも話せなかった。直接な答えではなかったが、奨学金がどれだけうれしかったことかがしみじみと感じられた一瞬だった。
それは、わたしにとって『基金』にやりがいを強く感じた一瞬でもあった。

3.『基金』の課題および今後の展望

 『基金』は発足してまる2年が経とうとしている。学習意欲があり、かつ生活が困難で、モンゴル語で教育を受けているモンゴル農牧民子弟に奨学金を提供している。こうした活動の究極の目的は、次世代に対して経済的困窮よりも文化的貧困に陥らないよう励ましたいということにほかならない。多くの在日モンゴル人はこの主旨に賛同し、協力してくれたおかげで、『基金』はやっと独り立ちできるようになってきた感がある。日本人の支援者や協力者に「在日モンゴル人の結束力はすごいね」などと言われたときは、ついつい子どもみたいに誇り顔になってしまうのはわたしだけではあるまい。


kikin25.gif
しかし、一口に「モンゴル人」と言っても、それぞれ夢を追って来日しており、互いの生活状況も異なるので、すべてのモンゴル人を動員できないのは当然ではある。ボランティア団体としての『基金』には強制力はなく、すべて個々人の自覚に任せるため、全体の取りまとめは予想以上に難しかったことは事実である。より広い範囲でモンゴル人ネットワークを形成し、資金力を向上させるために全国的な組織を作ったのだが、ごく一部地域の支部を除いてその機能は果たされなかった。そうした組織面での問題は今後も最重要課題になるだろう。一方、動員力に関して、前述の組織作りとの関連で、発足当時、300人の会員を確保できれば会費だけでも基金の継続的運営が可能だと考えていたが、現在では会員はその3分の1程度である。いまでは、主としてチャリティー・コンサートの収益金や親切な日本人の寄付金によって支えられている。当初の年間100人に奨学金を届ける夢には近づいてきたとは言え、組織力や動員力にはなお課題が残されている。その最大の原因は、『基金』の活動についての認識不足とモンゴル人としての自覚的協力精神の欠如のほか、『基金』自体が持つボランティア活動の限界と実質的な稼働力によるものが大きいと考えられる。

 このような問題を解決するにはどうすればよいのだろうか。わたしにはいまのところ得策はない。なぜならわたしは他力本願ではなく、自分たちの結束力こそが大事だと考えているからである。だから多くのモンゴル人に心から『基金』に貢献したいという自覚を持ってもらうしかない。しかし、「モンゴル人」というアイデンティティを持ちながら『基金』への協力者が限られている。このような相矛盾する問題をどのように理解すればよいのか。会員の大多数が私費留学生であると言う厳しい現実は承知だが、一年のうちの居酒屋で飲む回数を一回だけ減らせるだけの決心はないだろうか。

 継続は力なり。われわれにはでかいスローガンは要らない。みんなで「モンゴル民族文化基金」を続けよう。いま自分にできる「小さなこと」から始めよう。故郷でわれわれの奨学金を受け取った子どもたちの素敵な笑顔に会いたい。感動の涙も見たい。

バー・ボルドー
ユーラシアンクラブ講演にて